「文章読本さん江」 斎藤美奈子・著 筑摩書房
「食農教育」 2003年 7月号 掲載


読みながら、何度も声を出して笑った。
谷崎潤一郎、三島由紀夫、丸谷才一、井上ひさし
といったそうそうたるメンバーが俎上にのせられ、
料理され、切りまくられていく。
ああ痛快! 

文芸評論家・斎藤美奈子さんの手にかかると、
文学界の巨匠も、
ただのぶつくさ小言オヤジに見えてくる。
ジャーナリストの大御所、
本多勝一も形無しだ。

殿方たちが晴れがましく「文章読本」を著する栄誉を讃えて、
彼らに盛大な花束を!
……という意図が込められたタイトル『文章読本さん江』。
ここからもうすでに、極上の皮肉がたっぷり。

谷崎潤一郎が、いちおうこのジャンルの総元締めらしい。
「文章読本」という四字熟語を発明した開祖的存在であるという。
彼が「あるがままに書け」だの
「文章に実用的・芸術的の区別はない」などと書いたものだから、
後に続く物書きプロのおじさんたちは
黙っていられなかった(らしい)。

そして、「ちょっとオレにも言わせろ」と
カラオケのマイクを奪い合うがごとく、
多種多様な文章読本が生まれ出でて今に至るらしい。

とはいっても、
単に感覚的に彼らを批評したのでは
全く説得力がない。
百冊以上もの膨大な資料を読みこなし分類し、
それをわたしのよ〜な野次馬的読者にも
わかりやすくかつ面白いように描写して
ぐいぐいとひっぱってゆく手際は、
鮮やかだ。
かっこいい。

さらに、「文章読本」を題材にしながら、
男社会のエリートたちの偽善や傲慢さも
浮き彫りにしていく。
そして、「読本」の市場を支える
アマチュアの文章マニアたち、
特に主婦たちの無自覚的な「文章読本崇拝意識」に対しては一言
「奴隷根性」、と手厳しい。

圧倒的男社会である「文章読本世界」の
ヒエラルキーも見せてくれる。
上から、文学者
↓ジャーナリスト(朝日新聞系が多い)
↓大学教授
↓雑文家と続く。

後半では、明治以来の、
作文教育の歴史にとりかかる。
作文教育も時代背景とともに大きく変化してきた。
その変遷をリアル描くことによって、
教育の持つ危うさをもあぶりだしてゆく。
教育に関わるヒトには必読!?  かも。

また、文章読本に書かれている
5大心得&3大禁忌&3大修業法も
コンパクトにまとめられているから、
多くのの読本をいっぺんに読んだような気になって、
とってもお得。
より良い文章が書けるような気がしてくる……かも。

今後の「文読」の可能性をも示しているこの本、
これが斎藤美奈子流
「文章読本」なのかもしれない。

 

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